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「何を作れば売れるのか」。商品開発に携わる方なら、誰もが一度は直面する永遠の課題ではないでしょうか。市場調査を重ね、競合分析を行い、トレンドを追いかけても、なかなかヒット商品は生まれません。既存市場での競争は激化する一方で、価格競争に巻き込まれてしまうケースも少なくないでしょう。

しかし、カビキラーやシャウエッセン、モンカフェといった誰もが知るロングセラー商品には、実は共通する開発手法がありました。それが「キーニーズ法」です。この手法は、既存市場での競争ではなく、まだ存在しない「新市場」を創造することを目的としており、多くの企業が新商品開発で活用しています。

この記事では、キーニーズ法の基本から実践方法、成功事例まで詳しく解説していきます。自社の商品開発やマーケティング戦略に新たな視点を取り入れたい方は、ぜひ最後までお読みください。

キーニーズ法とは何か

キーニーズ法(Key Needs Method)は、日本のマーケティング研究者である梅澤伸嘉氏が1969年に提唱した商品開発手法です。この手法の最大の特徴は、既存製品の改良や競合との差別化ではなく、消費者がまだ気づいていない「未充足かつ強いニーズ」を発掘し、それに基づいた新しい市場を創造することにあります。

従来のマーケティング手法では、既存市場の中でいかにシェアを奪うかという発想が中心でした。しかしキーニーズ法は、まったく異なるアプローチを取ります。それは「市場がまだ満たしていない強いニーズとは何か」という問いから始まるのです。

キーニーズ法の核心的な考え方

キーニーズ法の核心は、消費者自身も明確に自覚していない「潜在的な強い欲求」を見つけ出すことにあります。多くの場合、消費者は自分が何を本当に欲しているのか、言語化できていません。だからこそ、表面的なアンケート調査だけでは真のニーズにたどり着けないのです。

この手法では、消費者の生活や行動を深く観察し、彼らが抱えている不満や不便、手間といった「不充足点」に注目します。そこから、まだ誰も気づいていない強いニーズを掘り起こしていくのです。

顕在ニーズ・潜在ニーズとキーニーズの位置関係

ニーズを理解する上で、まず「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」の違いを押さえておく必要があります。

顕在ニーズとは、消費者自身が明確に認識している要望のことです。例えば「もっと安いスマートフォンが欲しい」「軽いノートパソコンが欲しい」といった、消費者が言語化できるニーズを指します。これらは市場調査やアンケートで比較的容易に把握できますが、すでに多くの企業が対応しているため、競争が激しい領域でもあります。

一方、潜在ニーズとは、消費者自身がまだ自覚していない本質的な欲求のことです。「なんとなく不便だけど、仕方ないと思っている」「言われてみれば確かにそうだ」といった、表面化していない深層の欲求がこれに当たります。

では、キーニーズ法が狙うのはどの領域なのでしょうか。実は、キーニーズ法は潜在ニーズの中でも特別な位置にあります。それは「潜在ニーズの中でも、特に強くて未充足な部分」です。つまり、消費者が気づいていないけれども、一度気づけば強く欲するようなニーズを狙うのです。

この位置関係を理解すると、なぜキーニーズ法が新市場創造に有効なのかが見えてきます。顕在ニーズに応えるだけでは既存市場での競争になり、弱い潜在ニーズでは商品化しても売れません。強くて未充足な潜在ニーズこそが、新しい市場を生み出す鍵なのです。

ニーズの2軸分析

キーニーズ法では、ニーズを「強さ」と「未充足度」という2つの軸で分析します。

「強さ」とは、消費者がどの程度そのニーズを強く感じているかを示します。日常生活で頻繁に感じる不満や、強い欲求として認識されているものほど、ニーズの強さは高くなります。

「未充足度」とは、現在の市場や商品では、どの程度そのニーズが満たされていないかを表します。既存商品では解決できていない課題ほど、未充足度が高いということです。

このマトリクス上で「強くて未充足」の領域にあるニーズこそが、キーニーズ法が追求するターゲットです。ここを見つけ出し、商品化することで、競合のいない新市場を創造できるのです。

なぜキーニーズ法が注目されるのか

キーニーズ法が多くの企業から注目される理由は、主に3つあります。

まず第一に、競争の少ない新市場を創造できることです。既存市場での競争は、どうしても価格競争や機能の改善合戦になりがちです。しかしキーニーズ法で生まれた商品は、それまで存在しなかった市場を切り開くため、当初は競合がほとんどいない状態でスタートできます。これにより、適正な価格設定が可能になり、ブランド価値も確立しやすくなるのです。

第二に、ロングセラー商品の開発に向いているという点です。一時的な流行を追うのではなく、消費者の本質的な欲求に応えるため、商品の寿命が長くなります。カビキラーやシャウエッセンが何十年も愛され続けているのは、まさにこの理由からです。

第三に、体系的な発想法として社内で活用できることです。キーニーズ法は属人的なセンスやひらめきに頼るのではなく、手順に沿って進めることで誰でも実践できる手法です。そのため、社内研修やワークショップで活用しやすく、組織全体の商品開発力を底上げすることができます。

従来のマーケティング手法が「既にある市場でいかに勝つか」を考えるのに対し、キーニーズ法は「新しい市場をどう生み出すか」を考えます。この発想の転換こそが、多くの企業がキーニーズ法に注目する最大の理由なのです。

成功事例から学ぶキーニーズ法の威力

理論だけではイメージしにくいかもしれませんので、具体的な成功事例を見ていきましょう。

カビキラー(ジョンソン株式会社)は、キーニーズ法を活用した代表的な商品です。開発当時、お風呂のカビ取りは非常に手間のかかる作業でした。ブラシでゴシゴシこすっても、カビの根は残ってしまう。この「落としにくいカビを簡単に除去したい」という未充足ニーズに着目し、スプレーするだけでカビが落ちる商品を開発したのです。発売後、カビキラーは圧倒的な支持を得て、カビ取り剤という新しい市場を創造しました。

シャウエッセン(日本ハム)も同様です。当時、家庭で食べるウインナーは、本場ドイツのような「パリッとした食感」を味わえるものではありませんでした。「本格的なパリッとしたウインナーを家庭でも食べたい」というニーズは確かに存在していたものの、既存商品では満たされていなかったのです。シャウエッセンはこのニーズに応え、プレミアムウインナー市場という新たなカテゴリーを確立しました。

モンカフェ(片岡物産)は、「簡単に淹れたてのコーヒーを楽しみたい」というニーズを捉えました。インスタントコーヒーでは物足りないけれど、ドリップは面倒。このジレンマを解決する一杯抽出型のドリップコーヒーを開発し、新しい市場を生み出したのです。

これらの事例に共通するのは、消費者が「言われてみれば確かにそうだ」と感じるニーズを的確に捉え、それまでなかった解決策を提供した点です。新市場を創造するということは、消費者に新しい選択肢と価値を提供することに他なりません。

キーニーズ法の実践プロセス

では、実際にキーニーズ法をどのように進めていけばよいのでしょうか。一般的なプロセスは次の5つのステップで構成されています。

生活者観察・ヒアリング

まずは消費者の生活の中にある不便や不満を徹底的に収集することから始めます。ここで重要なのは、単にアンケートを取るだけではなく、実際の生活シーンを観察することです。消費者がどんな場面でつまずいているのか、どんな行動にストレスを感じているのか。時には消費者自身も気づいていない不満を見つけ出す必要があります。

例えば、エスノグラフィー調査(行動観察調査)やデプスインタビュー(深層面接)といった手法を用いて、表面的な回答の奥にある本音を探っていきます。「なぜそうするのか」「本当はどうしたいのか」といった深掘りを繰り返すことで、潜在的なニーズが浮かび上がってくるのです。

ニーズ抽出

収集した情報から、「未充足かつ強いニーズ」を特定します。ここでは先ほど説明した2軸分析が活用されます。多くの不満や要望の中から、本当に強くて、まだ市場で満たされていないニーズはどれなのかを見極めていくのです。

この段階では、複数の候補が出てくるでしょう。それぞれのニーズについて、どの程度の強さがあるのか、どの程度未充足なのか、市場規模はどれくらい見込めるのかを評価していきます。

コンセプト設計

特定したニーズを満たすための新商品やサービスのアイデアを構築します。ここで大切なのは、単に機能や性能を考えるだけでなく、消費者にとっての価値を明確にすることです。

「この商品を使うことで、消費者の生活がどう変わるのか」「どんな体験を提供できるのか」といった視点でコンセプトを練り上げていきます。技術的な実現可能性も考慮しながら、魅力的なコンセプトを作り上げるのです。

検証

試作品や概念をもとに、ターゲット層に受容性をテストします。コンセプトが本当に消費者の心に響くのか、実際に購入したいと思ってもらえるのかを確認する重要なステップです。

ここでのフィードバックをもとに、コンセプトや製品仕様を修正していきます。場合によっては、ニーズの再定義が必要になることもあるでしょう。検証と改善を繰り返すことで、商品の完成度を高めていくのです。

商品化・市場導入

売れる見込みが確認できた段階で、いよいよ商品化を進めます。ただし、商品化して終わりではありません。市場導入後も消費者の反応を注意深く観察し、必要に応じて改善を続けることが重要です。

新市場を創造する商品は、消費者に新しい価値や使い方を提案するものですから、適切なプロモーションや啓蒙活動も欠かせません。「なぜこの商品が必要なのか」を消費者に理解してもらう努力が、成功の鍵を握ります。

キーニーズ法を成功させるポイント

キーニーズ法を実践する上で、押さえておくべき重要なポイントがあります。

まず、C/Pバランス理論を理解しておくことです。これは「Concept(購入前の期待値・コンセプトの魅力)」と「Performance(購入後の満足感・実際の性能)」のバランスを示す理論です。

売れる商品になるには、この2つのバランスが取れている必要があります。いくら期待させるコンセプトを作っても、実際の性能が伴わなければ消費者は失望し、リピート購入には繋がりません。逆に、性能は優れているのにコンセプトが魅力的でなければ、そもそも手に取ってもらえないのです。

また、ニーズアプローチとシーズアプローチの使い分けも重要です。ニーズアプローチは消費者の課題から発想する方法で、「こんな不満がある」という出発点から商品を考えます。一方、シーズアプローチは企業側の技術や資源を起点に考える方法で、「この技術で何ができるか」という視点です。

どちらか一方に偏るのではなく、両方の視点を持つことが大切です。消費者のニーズを理解しながら、自社の強みや技術をどう活かせるかを考える。この往復思考が、実現可能で魅力的な商品開発に繋がります。

キーニーズ法導入時の注意点

キーニーズ法は強力な手法ですが、実践にあたってはいくつかの注意点もあります。

まず、潜在ニーズの発見には高度な観察力と分析力が求められます。表面的な調査だけでは見つからないニーズを掘り起こすには、経験と訓練が必要です。一朝一夕に身につくスキルではないため、社内での継続的な学習や実践が欠かせません。

また、成功するまでの検証コストが高く、リスクを伴うという点も理解しておく必要があります。新市場を創造するということは、前例のない挑戦です。失敗する可能性もありますし、商品化までに時間とコストがかかることも覚悟しなければなりません。

さらに、「既存の改良型商品」ではなく「未知の市場創造型商品」を目指すため、社内の理解と支援体制が不可欠です。短期的な成果を求められる環境では、キーニーズ法の真価を発揮しにくいかもしれません。経営層の理解と、中長期的な視点での取り組みが求められるのです。

とはいえ、これらの課題を乗り越えた先には、競合のいない新市場という大きなチャンスが待っています。リスクとリターンを天秤にかけながら、戦略的に取り組むことが重要です。

まとめ

キーニーズ法は、「売れるものを作る」のではなく「売れる理由を作る」ための方法論です。消費者が自覚していない本質的な欲求を見抜き、それを満たす新市場を創出することで、長期的な事業価値を生み出すことができます。

カビキラーやシャウエッセン、モンカフェといったロングセラー商品が証明しているように、この手法は確実に成果を生み出してきました。既存市場での競争に疲弊している企業にとって、キーニーズ法は新たな突破口となる可能性を秘めています。

もちろん、潜在ニーズの発見や検証には時間とコストがかかります。しかし、一度新市場を確立できれば、その先にあるのは競合の少ない安定した事業基盤です。短期的な成果だけでなく、中長期的な視点で商品開発を考えるなら、キーニーズ法は検討する価値のある手法と言えるでしょう。

自社の商品開発やマーケティング戦略に、キーニーズ法の考え方を取り入れてみませんか。もし「自社の商品開発に活かせるか知りたい」「具体的な導入方法について相談したい」とお考えでしたら、ぜひ無料相談をご利用ください。あなたのビジネスに最適な新市場創造の戦略を、一緒に考えていきましょう。

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